「帰ってきた猫」
私が小学校3年の時、飼っていた猫が交通事故で死んでしま
いました。
近所の人が家を訪ねてきて、何も言わずに出かけた母が真っ青な
顔をして戻ってきて、「何があったの?」と尋ねても何も答えて
くれませんでした。
何時間も経ってから「ロビン(猫の名前)が轢かれて死んだ」と
教えてくれました。いちばんロビンを可愛がっていた私になかな
か言い出せなかったんだと思います。とても信じられませんでした。遺体は内臓が出てひどい状態だっ
たそうで、「最後のお別れがしたい」と言っても母はなかなかう
んと言ってくれませんでしたが、ようやく顔だけ見せてもらいま
した。
死に顔は安らかでしたが、轢かれた瞬間に吹きだしたのであろう
血の跡が鼻と口の周りに残っていました。痛かっただろう、怖か
っただろう、その顔を見るとそう感じられて我慢してた涙があふ
れて止まりませんでした。
その日、兄の帰宅を待って、近所のお寺に供養の念仏をあげても
らって、埋めに行きました。それから2,3日経った頃だったと思います。
夜寝ようと布団でうとうとしていると、布団の中に猫が入ってき
たんです。まだ5月、割と標高が高い田舎の集落に住んでいたの
で、ドアや窓はまだ閉めているので、野良猫が入り込むなんてあ
りえません。ロビンが帰ってきた!
生きてたんだ!そう思いました。布団の中で触ってみても、毛の硬さといい、体
つきといい、明らかに飼っていたロビンでした。撫でられて盛大
にゴロゴロと喉を鳴らしていました。あごの下を撫でると、いつ
ものように顎の下の毛皮が伸びきってしまう程顎を上げます。喉
を鳴らす、心地よい振動がしっかりと手に感じられます。外出か
ら帰ってきたばかりの時のようで、少し冷えた毛皮の下にしっか
りと暖かい体温を感じました。家の近所に、ロビンとよく似た模様の猫がいたので、きっとその
猫と間違えたんだ、そう思いました。喜んで、布団をめくって見
てみました。
でも、ロビンの姿はありませんでした。もっと奥に潜っちゃった
のかな?と思って、立ちあがって掛け布団を全部上げて見ました
が、やっぱりいませんでした。
ゴソゴソしている音を聞きつけて、母が「どうしたの?」と聞き
にきましたが、ロビンがいなかったことが哀しくてしょうがなか
った私は「なんでもない」とだけ答えて布団に潜り込みました。子供のことだから寝ぼけたんだろう、と思われそうですが、私は
物心つく前からものすごい不眠症で、いつも布団に入ってから眠
るまで2時間以上頭ははっきりしていました。
またこの時は私が布団に入って、10分位しか経っていませんで
した。
何よりもゴロゴロと喉を鳴らすあの振動が、夢だったとは絶対に
思えません。当時は「やっぱりもうロビンはいないんだ」と再認
識させられて哀しいばかりでしたがきっと天国に行く前にロビン
が挨拶に来てくれたんだろうと今は思います。
死んだ当時、まだ2歳位だったロビンの短い生涯、少しでも幸せ
だったと感じてくれていたらいいなと思います。