[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
「峠の怪車」
当時、免許を取り立てだった私は、なけなしの貯金を叩いて
中古のスポーツカーを買い、毎夜、峠に走りに行ってました。
週末はローカルの走り屋連中がチームとして走りますので、
私のような初心者は平日の深夜こっそりと練習して、
自信がついたところで、週末の峠にデビューするのが一般的でした。その日も、私が1人で峠を走っていたところ、妙に遅い車がいました。
僕も煽られる怖さは身に染みてわかってましたので、後ろから適度な
間隔を空けてついていきました。ここは走り屋が多い峠ですし、
走り屋の車は先に行かせる習慣のようなものができてたのです。
もちろん、私の車も一発で走り屋のそれとわかるようなものでしたから、
てっきり譲ってくれると思い込んでました。ところが、その車はいつまで経っても道を譲らないどころか、
私を挑発するようにチンタラ走り、左右に蛇行し、急ブレーキを踏んで
停止寸前までスピードを落としてさえします。それでカチンときた私は、
ギヤを落とし、エンジンの回転数をあげて追い越しにかかりました。
中古とはいえ、名の通ったスポーツカーです。そのうえかなりのチューニング
もしてあったので、一般車を追い越すのに必要な馬力は充分過ぎるほどです。
本気を出した私は、あっさりとその車を抜き去りました。
しかし、その後、私はとんでもない恐怖を味わうのです。なんと、さっきまではチンタラ走っていたその一般車がスピードをあげ、
私を煽ってくるのです。私は、一般車に煽られるようなスピードで走っていた
わけではありません。最近は、腕があがってきてたので、ほとんどの走り屋に
すら煽られることはなくなってました。なんのに、その一般車(10年くらい前
のカローラ?)に煽られまくるのです。煽られるだけでもプレッシャーがかかるのに、
さらにパッシング&クラクションの連打です。私はその予想外の事態に動転し、
必死でアクセルを踏んで飛ばしました。体中から冷や汗がでて、心臓がバクバク
して、もう恐怖で我を失いそうでした。そのとき、いきなり対向車線から車が来ました。 背筋が凍るとはこういうときのこと
を言うのだと、骨身にしみて実感しました。パニックになった私は、必死に対向車
を避けようとして、ハンドルを切りました。ハンドルを切った先が運良く、脇道(ブレーキ
がフェードしたときのための回避路)に入り込み、事なきを得ましたが、私を煽っていた
車は後ろにはいませんでした。狭い峠ですから、この脇道以外で対向車を避けられた
とは考えられません。不審に思った私は、車を降りて捜してみました。しかし、あの車は
どこにもいなかったのです。それどころか、私が避けたはずの対向車のエンジン音も全くしないのです。完全な静寂です。風で木の葉がこすれる音すら聞こえませんでした。
私は恐くなって、急いで車をバックさせて、峠を下りました。
もう煽られないようにと祈りながら……。翌日、走り屋仲間にそのことを話すと、こんな話をしてくれました。
私が事故りそうになった場所は、昔から走り屋連中が何人も死んでいる難所で、
その多くがバトルの最中にオーバースピードで突っ込んで、曲がりきれずに
ガードレールに追突して死んでいったそうです。幸いにも命が助かったヤツの多くは、
「しょぼい一般車に煽られて無理をした」と言っているとか。そいつがいうには、
昔、走り屋に煽られて無理をして事故った一般車があったそうです。
その一般車が「カローラ」だったのは、ただの偶然なのでしょうか……。霊感がない私には、あれが幽霊だとは断言はできませんが、
不思議な体験だった ことだけは確かです。
願わくば、もう二度とあんな体験はしたくはありません。