「最後のお別れ」
今から10年くらい前の事です。
私の母親は病気で長い間入院をしていて、
その治療の為にたまにひどくキツいお薬?か
なんかを使う時がありました。
その薬を使うと、ぼーっとした感じになって、
食事はもちろん身の回りの事全てひとりでは出来なくなるので、
普段は付き添いはダメな病院も、その時だけは付き添いの許可が
出てました。私、父、おばあちゃんの3人が日替わりで付き添い
してたのですが、これはおばあちゃん(母親の母親)が付き添い
の日の夜に起こった出来事です。
その時、母は個室にいましたが、
以前大部屋にいた時、とても仲良くしていた女性がいました。
歳は母よりずいぶん若かったのですが、
私と同じ歳の娘さんがいらして、同じ病気で…
という事で話が合ったのでしょう。
お互いが外泊許可をもらって家に帰る時やまた病院に来る時は、
玄関までお見送り・お迎えをするほどでした。
その方も容態が悪くなり、母の隣の個室に移って来ていたのですが、
その夜、かなり危ない状態になったようで、
親戚の方々が集まってきていたそうです。
ぼーっとした頭でも、隣の部屋の妙な雰囲気に気が付いた母が、
おばあちゃんに「何があったの?」と聞いたそうです。
ですがおばあちゃんも「危ないらしい」とは返事できずに、
「退院するんだって」と答えたそうです。
すると母は「今までお世話になったんだから挨拶に行く!」
と言ったらしいのですが、
おばあちゃんが「自分1人で歩けもしないのに!」と何とか
引き止めると、母は「ふん」と諦めてベッドに横になったそうです。
ところが…夜中に母が急にドアの方に向かって「誰?」「何?」
と言い出したらしいのです。
おばあちゃんがドアを見てもそこには誰もいません。
しかし母は「ドアのとこに誰かがいる。ほら、」と言って指差し、
おばあちゃんに「見てきて」と言ったらしいです。
おばあちゃんがドアの所へ行き、外まで見ましたがやはり誰も
おらず、夜中の病院は静まりかえっていて、廊下を歩く人すら
いなかったそうです。
それでも母は相変わらず「誰なの?」「何か用?」を繰り返すので、
業を煮やしたおばあちゃんが「きっとテレビよ」と言って(テレビ
なんかついていなかったそうですが)
なんとかその晩は母を寝かせたそうです。
次の日の朝、ナースの方に聞くと、
なんとその夜のその時間頃に、隣の部屋の方が亡くなったとの事、
おばあちゃんは「ぞーっとした」と言ってました。
人生の最後に友達になった母に、最後のお別れを言いに来たのか、
それとも単に薬でぼーっとしていた母が幻覚を見たのか。
おばあちゃんも母も亡くなってしまった今では、誰にも分からない
んですけどね。。。